【まい投2020-53日目】【童話】孝行ライオン
ある世界、ある場所に、王様ライオンがいた。
王様には3匹の息子がいた。
王様は王様なりに息子たちを愛しており、王様なのに熱心に教育した。
外の環境の厳しさを伝え、いまがどれだけ恵まれた環境なのか染み入らせた。時には食べ物を与えなかったり、噛みついたりもした。
なんでもいいからと思うがままに挑戦を促しつつ、誤った道を進もうとするたびにその前に立ちはだかって守った。
未熟なまま外に出ると危険なので、勝手に群れを離れる愚かものは自由にしろと再三再四言った。
外の世界の厳しさを耳で知っている息子たちは、そう言われて出ていこうとは思わなかった。
- ライオンは生後2~3年で大人になる。
王様は息子全員が大人になるまで1匹も欠けることなく育てた。
- 大人になった雄のライオンは、親であろうと群れから雄を追い出すものである。
王様は強かったし、息子たちはみんな優しく育ったので、王様を追い出すことはなかった。
- しかしながら群れに雄はひとりしかいられない。
王様は大人になった息子たちにこう告げた。
「どうしてこんなにも弱く育ってしまったのか。大人になったんだから自分で考えて生きなさい。」
外の環境の怖さが耳に染みついていた長男は、恐れを感じながらもそろそろと群れを離れた。
二男は群れからから離れられることをいちばん喜び、怖いのも忘れて飛び出していった。
王様は「自分の個性を活かしなさい、そして私が伝えたことを守って生きなさい」とも言った。
三男は王様に何度も叱られながら1週間考えたが、群れに残ることに決めた。
王様は三男がのこることに「プライドに泥を塗られた、恩知らずめ」と言って叱りつけつつも、追い出すほどのことはしなかった。
- ライオンの群れは「プライド」と呼ばれ、雌が狩りをしたものを群れで分けて食べ、雄の役目は「プライド」全体を守ることだ。
三男は衰え始めた王様の身の回りの世話を始めた。自ら狩りに出向き、王様だけに猟果を与えた。王様が寝る間は身を守った。
- ライオンの雌にとって「プライド」唯一の雄の子を産み子育てすることが最大の仕事である。
衰えた王様と生殖に参加しない三男を前に、程なくして雌ライオンたちは「プライド」を離れてしまったが、三男はおとろえゆく王様の介護を続けた。
- 群れを離れた雄ライオンはほかの「プライド」の雄にとってかわらない限り生きていけない。
もう王様にその力はなかったが、三男の狩りのおかげで生きていることができた。
走るのも難儀になってきたころ、王様は三男に改めて言った。
「お前のしたいことをしなさい。」
三男はこれが私のしたいことです、と答えた。
王様は「お前は私の世話をするために生まれてきたわけじゃない」と、嗄れた声で言いつけた。
三男はたじろぎながらも精いっぱい笑い、いいえ、と言った。
「王様、私は王様の下で生きてきました。外は危険でいっぱいです。正しい道は王様の前にあります。王様から離れるなどと愚かなことはいたしません。」
「私はずっとこのように生きてきて、こう育ちました。これが私の個性なのです。」
王様はお前のような者は息子ではない、と口走った。
「いいえ、私は王様の息子です。だからこそ、王様の言いつけを守ります。」
「王様が私にしてくれたことを、私が王様にします。これが私の恩返しです。」
王様は「恩返し」を受け入れるしかなかった。助けを求めるべき仲間は去ったし、逃げ出したとて生きていけなかった。
その世界に立ち入った写真家は、王様と介護をする三男を見つけ、「親孝行をする、世にも珍しいライオン」として人々に感動を与えた。